東京高等裁判所 平成4年(行ケ)244号 判決 1995年6月29日
東京都中央区日本橋室町2丁目2番1号
原告
東レ株式会社
同代表者代表取締役
前田勝之助
同訴訟代理人弁護士
柴田眞宏
同
松崎曻
同訴訟代理人弁理士
樋口榮四郎
岡山県倉敷市酒津1621番地
被告
株式会社クラレ
同代表者代表取締役
中村尚夫
同訴訟代理人弁護士
野村昌彦
大阪市中央区南本町1丁目6番7号
被告補助参加人
帝人株式会社
同代表者代表取締役
板垣宏
同訴訟代理人弁護士
野村昌彦
大阪市北区堂島浜2丁目2番8号
被告補助参加人
東洋紡績株式会社
同代表者代表取締役
柴田稔
同訴訟代理人弁護士
野村昌彦
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用(補助参加によって生じた費用を含む。)は原告の負担とする。
事実
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
(1) 特許庁が平成3年審判第12644号事件について平成4年10月14日にした審決を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文同旨
第2 請求の原因
1 特許庁における手続の経緯
原告は、名称を「シートクッション」とする登録第1818379号の実用新案(昭和56年5月1日出願、平成1年8月22日出願公告、平成2年6月5日設定登録、以下「本件考案」という。)の実用新案権者であるが、被告は、平成3年6月21日原告を被請求人として、特許庁に対し、本件実用新案登録について無効審判の請求をしたところ、平成3年審判第12644号事件として審理された結果、平成4年10月14日「登録第1818379号実用新案の登録を無効とする。」との審決があり、その謄本は、同年12月2日原告に送達された。
2 本件考案の実用新案登録請求の範囲
開繊されたポリエステル短繊維が中綿として塊状で袋状側地内に加圧気体とともに圧入するように吹き込まれ、該短繊維がほぼ吹込み方向に直交する垂直断面内に圧縮配列された厚さが約3~7cmのシートクッションであって、該中綿の見掛け密度は0.02~0.05g/cm3であるとともに、該シートクッションの平面を構成する部分において、面積100~400cm2当り少なくとも1個の中綿と側地とを一体に固定する厚さ方向固定部を有することを特徴とするシートクッション(別紙図面1参照)
3 審決の理由の要点
(1) 本件考案の要旨は、前項記載のとおりである。
(2)<1> 請求人(被告)は、本件考案は、請求人の提出に係る刊行物及び周知技術に基づいてきわめて容易に考案することができたものであるから、実用新案法3条2項に該当すると主張する。
請求人の提示した、
昭和55年特許出願公開第47888号公報(以下「引用例1」という。)には、「ポリエステル系合成繊維であり開繊された短繊維を、高圧空気流発生装置によって側地内に吹き込んで製造されるシートクッション」(別紙図面2参照)が、
「クラッチマの不織布」77頁ないし78頁(昭和49年1月20日株式会社日本繊維新聞社発行、以下「引用例2」という。)には、「ほぐされた繊維を、空気ノズルから空気とともに凝縮溝中に吹き込み、該凝縮溝はそれ自体の振動運動と、繊維に作用する空気圧とによって振動し、後者が空気流に対して直角状態に作用することにより、繊維が繊維層の表面に対しほとんど垂直方向に配列され、接着剤によって固定することにより、主に詰物材料として用いられる。三次元方向に繊維が配列して原料使用量が減り、状態維持力のあるウェブが製造される」こと、及び「その繊維の凝縮度が、使用空気圧に関係する」(別紙図面3参照)ことが、
昭和55年特許出願公開第76152号公報(以下「引用例3」という。)には、「敷ふとん等の詰物として、その見掛け密度を、0.01g/cm3以上で0.05g/cm3を超えない範囲、好ましくは0.02~0.046g/cm3とすること」(別紙図面4参照)が、
昭和48年実用新案登録願第99436号のマイクロフィルム(昭和50年実用新案出願公開第47712号公報、以下「引用例4」という。)には、「繊維長20~100mmの短繊維を開繊堆積したものを詰綿とするふとんにおいて、詰綿の中寄れを防止する刺し綴じをなす」(別紙図面5参照)ことが、
それぞれ記載されている。
<2> 本件考案と引用例1記載の発明とを対比すると、「シートクッションの厚さを約3~7cmにすることは、シートクッションにおいて自明のこと」であり、引用例1記載の発明のシートクッションの厚みも当然上記範囲のものを含むものである。
してみると、両者は、「開繊されたポリエステル短繊維が中綿として袋状側地内に加圧空気とともに圧入するように吹き込まれ、厚みが約3~7cmのシートクッション」である点で一致する一方、本件考案のものが、以下(a)ないし(c)の構成を有するのに対し、引用例1記載の発明には、これらに関する記載がない点で相違している。
(a) 中綿の短繊維がほぼ吹込み方向に直交する垂直断面内に圧縮配列されている。
(b) 中綿の見掛け密度が0.02~0.05g/cm3である。
(c) シートクッションの平面を構成する部分において、面積100~400cm2当り少なくとも1個の中綿と側地とを一体に固定する厚さ方向固定部を有する。
<3> そこで、上記相違点について検討する。
(a) 相違点(a)についてみると、ほぐされた繊維を空気とともに溝などの閉鎖空間内に吹き込むと、空気の流れの状態によって、移送される繊維の配列状態が影響を受けて三次元方向に配列されることは、引用例2に記載されているように一般に知られていたことであり、しかも、該技術が主に詰物材料として用いるウェブの製造技術であることからみて、該技術を引用例1記載の技術において用いることは、当業者にとって格別困難なこととはいえない。
(b) 相違点(b)についてみると、使用空気圧により堆積繊維の凝縮度が左右されることが引用例2に記載されているように従来より知られているところ、敷ふとん等の詰物の見掛け密度は、0.02~0.046g/cm3が好ましいことが引用例3に記載されており、引用例3記載の敷ふとんと本件考案のシートクッションとは、ともに人体用の敷物の一種であり、ともに良好なクッション性が求められることからみて、引用例1記載のクッションの見掛け密度を引用例3における限定数値とほぼ同じ数値の範囲とする程度のことは、当業者にとってきわめて容易なことといわざるを得ない。
(c) 相違点(c)についてみると、短繊維を詰綿とするふとんに、本件考案の厚さ方向固定部に相当する刺し綴じをなすことは、引用例4に記載されているとおり従来から周知であって、該周知技術を本件考案に適用すること、及びその個数をシートクッションの平面を構成する部分において、面積100~400cm2当り少なくとも1個とすることに、何らの困難性も認められない。
そして、本件考案において、そのようにしたことによる効果も、格別のものがあるとはいえない。
<4> 被請求人(原告)は、「シートクッションの平面を構成する部分において、面積100~400cm2当り少なくとも1個の厚さ方向固定部」を設けることは、「使用時又は洗濯時に断層崩れ、パンク現象を起こしやすい」という欠点が解消される点で特に意味があるという趣旨の主張をしている。
しかし、加圧気体の吹込みにより形成される詰物用繊維ウェブに関する引用例2記載の前記「繊維の三次元圧縮配列」、「少ない原料使用量による高い見掛け密度」及び「接着剤による状態維持」と、引用例4記載のような「従来技術」とを勘案すれば、被請求人の該主張点で本件考案が特別のものであるとはいえず、してみれば、請求人が請求の理由中で別に主張している『「短繊維がほぼ吹込み方向に直交する垂直断面内に圧縮配列」という記載は、「繊維軸方向が大部分詰物体の厚さ方向に配列」という出願当初の記載を全く別の技術に補正したもので、要旨変更である』旨のところも当を得ていないというべきである。
<5> 以上のとおりであるので、本件考案は、引用例1ないし4に記載された内容に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、実用新案法3条2項の規定により実用新案登録を受けることができない。
<6> したがって、本件考案の登録は、実用新案法3条の規定に違反してされたものであり、同法37条1項1号に該当し、これを無効とすべきものとする。
4 審決を取消すべき事由
審決の認定判断のうち、審決の理由の要点(1)は「面積100~400cm2当り少なくとも1個」との部分を除き認める、同(2)の<1>のうち、引用例1及び2の記載は認めるが、引用例3及び4の記載は否認する、<2>は認める、<3>は争う、<4>のうち原告が主張していることは認めるが、本件考案が特別のものであるとすることはできないとの判断は争う、<5>、<6>は争う。
本件考案の実用新案登録請求の範囲における厚さ方向固定部についての「面積100~400cm2当り少なくとも1個」の記載は、その記載自体矛盾した表現で意味をなさず、「面積100~400cm2当り1個」の誤記である。本件出願当初の明細書(以下「当初明細書」という。)では「面積400cm2以下当り少なくとも1個以上」と記載していたが、この記載を明確にし、また、上限を「面積100cm2当り1個」に限定する際に生じた誤記である。
審決は、本件考案の目的、作用効果を誤認し、相違点(a)、(b)、(c)に対する判断を誤り、その結果、本件考案は引用例1ないし4に記載の内容に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであると誤って判断したもので、違法であるから、取り消されるべきである。
(1) 取消事由1(相違点(a)及び(b)に対する判断の誤り)
本件考案においては、中綿のポリエステル短繊維を袋状側地内に吹き込みによって圧入し、該短繊維をほぼ加圧気体の吹込み方向に直交する垂直断面内に圧縮配列させることと、この中綿の見掛け密度を0.02~0.05g/cm3にすることとは一体の要件である。
引用例2記載の技術は、凝縮溝中へ短繊維を吹き込んで該短繊維を繊維層の表面に対しほとんど垂直方向に配列させ、この繊維配列を接着剤で固定して詰物材料(本件考案でいう中綿に相当する。)を製造する技術である。この技術は、短繊維を吹込みによって繊維層の表面に対しほとんど垂直方向に配列させる点では、本件考案と共通する点があるが、ここにおける繊維配列は接着剤による繊維相互の接着によって固定されている。この接着剤で固定した中綿を側地内に詰めた詰物は粗硬感が大きいという問題がある。
引用例3記載の発明は、約40~95重量%の詰物用繊維と約5~60重量%の繊維状接着剤とからなり、該繊維状接着剤がその繊維状形態を実質的に保持して該詰物用繊維を接合しており、かつ0.010g/cm3以上で0.050g/cm3を超えない範囲の見掛け密度を有する繊維製マットレス状物である。このマットレス状物は、側地で被覆して製品とする(すなわち、本件考案のごとく、袋状側地内に短繊維を中綿として直接に吹き込むいわゆる吹込み方式ではない。)。また、このマットレス状物は、スチーム加熱で接着性を発揮する繊維状接着剤とポリエステル短繊維とを混綿し、これを所定の密度に圧縮し、その状態でスチーム加熱し、繊維相互を接着して形態固定して製造する。このように、接着剤で繊維相互を接着した中綿を側地内に詰めたものは粗硬感が大きいという問題がある。
開繊したポリエステル短繊維を中綿として直接に袋状側地内に吹き込むいわゆる吹込み方式で詰物を製造することは、引用例1記載の発明のみならず、本出願前から知られていた。しかし、この吹込み方式で本件考案の「中綿のポリエステル短繊維がほぼ吹込み方向に直交する垂直断面内に圧縮配列し、その中綿の見掛け密度を0.02~0.05g/cm3」にした高密度のクッションを得ることは従来不可能とされていた。
その理由は、吹込み方式で製造され、上記の繊維配列及び高密度の中綿を有するクッションは、繊維層が吹込み方向に強い力で押しつけられた状態になっており、しかもその厚さが3~7cmと比較的薄いので、この圧縮層は僅かな外力の作用によっても、繊維層が山状にもち上がり、形が崩れるいわゆるパンク現象を生じて実用にならなかったからである。
したがって、引用例2記載の技術に使用空気圧により堆積繊維の凝縮度が左右されることが記載され、また、引用例3記載の発明に敷ふとん等の見掛け密度は0.02~0.046g/cm3が好ましいことが記載されていても、当業者であれば、パンク現象を恐れて、引用例1記載の発明の吹込み方式においては、短繊維をほぼ吹込み方向に直交する垂直断面内に、見掛け密度が0.02~0.05g/cm3という高密度に圧縮配列させる詰込み手段は避けるはずであり、このような方式を考えることが当業者にとってきわめて容易とはいえない。
この点について、被告はパンク現象などの中綿の移動によって生ずる不都合な現象を刺し綴じによって解決することは、座ぶとんなどで古くから行われた旨主張しているが、従来の座ぶとんなどは、繊維をカードにかけて作った繊維シートを所要の厚さに重ね、これを側地内に入れたものであり、繊維層は側地の表面に平行になっているから、いわゆるパンク現象を起こさないのである。
以上のとおりであるから、本件考案と引用例1記載の発明との相違点(a)、(b)について、これらの相違点は、引用例2記載の技術及び引用例3記載の発明からきわめて容易になし得たことであるとした審決の判断は誤りである。
(2) 取消事由2(相違点(c)に対する判断の誤り)
審決は、相違点(c)について判断するに当り、本件考案における中綿と側地とを一体に固定する厚さ方向固定部の技術的意義を誤認し、シートクッションの平面を構成する部分において、面積100~400cm2当り1個の厚さ方向固定部を設けることは、何ら困難性が認められないと判断した(前記審決の理由の要点(1)の認否で述べたとおり、「面積100~400cm2当り少なくとも1個」は「面積100cm2当り1個」の誤記である。)。
開繊されたポリエステル短繊維を中綿として塊状で直接に袋状側地内に加圧気体とともに圧入するように吹き込み、該短繊維をほぼ吹込み方向に直交する垂直断面内に圧縮配列させ、厚みが約3~7cmで、中綿の見掛け密度を0.02~0.05g/cm3の高密度に充填されたシートクッションは、弾発性が大きいポリエステル短繊維の塊がそれぞれ独立して吹込み方向に圧縮されて高密度に充填されているため、弾発特性に優れているが、この圧縮された繊維層が山状にもち上がり、形崩れを起こしたり、断層崩れが発生するいわゆるパンク現象を起こし、実用にならなかった。
本件考案は、このパンク現象の発生を防止する手段の開発に基づいてなされたもので、防止手段の採用により、はじめて接着剤で繊維相互を接着したり、ニードリングによって繊維相互を絡み合わせたりしなくても、高充填密度の優れた性質を有する実用性あるシートクッションを得ることに成功した。
パンク現象の発生を防止する手段は、シートクッションの平面を構成する部分において、面積100~400cm2当り1個の中綿と側地とを一体に固定する厚さ方向固定部を形成せしめることである。これにより、シートクッションの形態安定性がよくなり、いわゆるパンク現象が防止でき、弾発特性、耐久性が極度に向上し、また、丸洗いができるようになる。そして、接着剤やニードリングを施さないので、粗硬感がない。
この厚さ方向固定部の数が、下限の400cm2当り1個未満では、使用時の断層崩れ、パンク現象、丸洗い時の中綿の移動が発生して本件考案の目的が達成できないのであるが、この数が、上限の100cm2当り1個を超えると、クッションは板状となり、嵩高性が低下して本件考案の目的が達成できない。このように、厚さ方向固定部の数値限定には意味がある。
また、引用例4記載の考案においては、予め刺し綴じを施して区切ったふとん側袋の詰綿室に、短繊維を気流に乗せてランダムな開繊、堆積状態に詰め込んで羽毛ぶとんのような嵩高なものにするのである。この場合、短繊維は羽毛と同じように気流に乗せられて開繊堆積状態に嵩高に詰め込まれているにすぎないから、このふとんは、いわゆるパンク現象を起こすことはない(本件考案では、短繊維が一定の方向に高密度に圧縮配列しているから、いわゆるパンク現象が生ずる。)。すなわち、パンク現象の発生に配慮し、これを防止する手段を行う必要性がないのである。
したがって、引用例4記載の考案に、刺し綴じが中寄れを防止する作用を持つことが記載されていても、この記載が刺し綴じによっていわゆるパンク現象の防止ができることを示唆しているとはいえない。
この点について、被告は、中綿の移動防止のため吹込み方式による詰物に厚さ方向固定部を設けることは、本件出願前周知であった旨主張するが、従来の座ぶとんの中綿の移動や片寄りと、本件考案におけるパンク現象とは、同様に側地と短繊維が移動する現象であっても、前者は中綿の水平移動であるのに対し、後者は厚さ方向の移動であって、その発生原因も発生態様も全く相違し、同じ現象でも、同質の現象ではない。
また、引用例4記載の考案における刺し綴じは、詰綿(中綿)を詰め込む前に、単に側地の表地と裏地とを部分的に一体化して詰綿室を形成するためのものであって、本件考案のごとく詰綿(中綿)を詰め込んだ後に施して、側地の表地と中綿と側地の裏地の3者を一体にするものではない。これでは、中綿が側地と一体に固定されないので、とうてい本件考案の固定部の目的は達せられない。
それ故、引用例4記載の考案における刺し綴じは、本件考案における、厚さ方向固定部の設定(刺し綴じなど)とは、その目的、作用効果が全く相違し、本件考案の厚さ方向固定部を示唆していることにはならない。
以上のとおり、引用例4記載の考案には、開繊されたポリエステル短繊維を中綿として塊状で直接に袋状側地内に加圧気体とともに圧入するように吹き込み、該短繊維をほぼ吹込み方向に直交する垂直断面内に圧縮配列させ、厚みが約3~7cmで、中綿の見掛け密度が0.02~0.05g/cm3のシートクッションにおける特有の問題点であるいわゆるパンク現象問題解決のため、中綿と側地とを一体に固定する厚さ方向固定部を設ける技術的思想は何ら開示も示唆もされていない。いわんや、この固定部をシートクッションの平面を構成する部分において、面積100~400cm2当り1個設けることについては何らの記載もない。
また、従来の座ぶとんにおいては、その繊維層の繊維は側地と平行に配列していて、いわゆるパンク現象を生じなく、刺し綴じは単に側地と繊維層がずれないようにするためのものであるから、中央に1個の刺し綴じがあれば十分であった。本件考案の刺し綴じは、従来の刺し綴じとは、その目的が全く異なり、その面積当りの個数も相違する。従来の座ぶとんには、いわゆるパンク現象という概念はなく、したがって、これを防ぐという概念もなかった。パンク現象を防ぐ観点から規定された本件考案の刺し綴じの個数の限定は、従来の座ぶとんの刺し綴じからきわめて容易に導き出せるはずがないのである。
審決は、「シートクッションの平面を構成する部分において、面積100~400cm2当り少なくとも1個の厚さ方向固定部を設けること」には特に意味はないとしているが、これは、いわゆるパンク現象の発生を解決し、シートクッションの形態安定性、弾発特性、耐久性を極度に向上させ、また、丸洗いができるようにする技術であって、その意義は大きい。
以上のとおりであるから、相違点(c)について、引用例4記載の考案からきわめて容易に想到し得たとした審決の判断は誤りである。
(3) 取消事由3(相違点(a)、(b)、(c)に対する判断の誤り)
本件考案のシートクッションは、開繊したポリエステル短繊維を中綿として塊状で袋状側地内に気体とともに圧入するように吹き込み、該短繊維をほぼ吹込み方向に直交する垂直断面内に圧縮配列させ、厚さ約3~7cmとし、この圧縮配列における圧縮の程度を中綿の見掛け密度が0.02~0.05g/cm3と高密度になるようにしたから、粗硬感のない、弾発特性の優れた中綿をもつシートクッションを高生産性で製造することができるという作用効果がある。
そして、本件考案は、シートクッションに、平面を構成する部分において、面積100~400cm2当り1個の中綿と側地とを一体に固定する厚さ方向固定部を設けたから、これによって、いわゆるパンク現象を生じない、形態安定性、弾発特性、耐久性がきわめて優れ、しかも丸洗い可能なシートクッションを得ることができた。
また、従来高密度で弾発特性のよい詰物の中綿は、中綿の繊維相互を接着剤で接着させたり、ニードリングによって繊維相互を絡み合わせたりして製造していたが、本件考案のシートクッションの中綿は、かかる処理が施されていないので、粗硬感がない。
以上のように、本件考案は、各構成要件が一体となり有機的に結びついて高品位のシートクッションを構成するものであるのに、審決は、本件考案の各構成要件の結びつきを無視して、本件考案の構成を、繊維吹込み方式、繊維配列、見掛け密度、厚さ方向固定部とばらばらに分解し、そして、本件考案と引用例1記載の発明とを対比し、その相違点について、本件考案の構成要件の一つが断片的に記載され、かつ、詰物に関するというだけで、本件考案とも相互間にも技術的に関係のない引用例2ないし4を引用し、これら引用例2ないし4記載の発明、考案、技術の目的及び全体的構成を全く無視して、これらの引用例の構成要件中から機械的に本件構成要件のみをつまみ出し、それぞれの相違点の進歩性を否定したものであって、不当な判断である。
第3 請求の原因に対する認否及び被告並びに補助参加人らの主張
1 請求の原因1ないし3は認める、同4は争う。
審決の認定判断は正当であり、原告の主張は理由がない。
2(1) 取消事由1(相違点(a)及び(b)に対する判断の誤り)について
原告は、引用例2記載の技術は、凝縮溝中へ短繊維を吹き込んで該短繊維を繊維層の表面に対して、ほぼ垂直方向に配列させ、この繊維配列を接着剤で固定して詰物材料を製造する技術であり、この接着剤で固定した中綿を側地内に詰めた詰物は粗硬感が大きいという問題点があり、また、引用例3記載の発明は、約40~95重量%の詰物用繊維と約5~60%の繊維状接着剤とからなり、該繊維状接着剤がその繊維状形態を実質的に保持して詰物用繊維を接合しており、かつ、0.010g/cm3以上で0.050g/cm3を超えない範囲の見掛け密度を有する繊維製マットレス状物であり、この接着剤で繊維相互を接着した中綿を側地内に詰めた詰物は粗硬感が大きいという問題点があるので、本件考案ではこれらの手法を避けたと主張する。
しかしながら、審決は、引用例2記載の技術で、詰物材料として用いるウェブの製造技術において、空気流により吹き込まれた繊維の配列が三次元方向となると記載のある方法を、引用例1記載のような吹込み方式によるクッションの製造方法にも用いることは容易であると認定しているのであって、接着剤を使用する場合を論じているのではないから、それによる欠点を論ずることは意味がない。接着剤を使用する点に欠点がある場合に、これを使用しない吹込み方式によるクッションの製造方法において、その他の技術、すなわち、空気流により吹き込む繊維の配列状態を利用しようと考えるのは当業者であればむしろ当然のことである。
また、引用例3記載の発明に関しても、審決は、本件考案の中綿の見掛け密度を0.02~0.05g/cm3とすることが、当業者にとって、きわめて容易に考えつくことであることを指摘しているにすぎないのであり、これまた接着剤を使用する場合を論じているのでないから、その問題点をあげることは意味のないことである。
さらに、原告は、中綿の見掛け密度をクッション内での繊維の配列状態と関係づけ、かかる状況下ではパンク現象が生じやすく、そのような高密度のクッションを得ることは従来不可能とされていたと主張する。しかしながら、当初明細書には、パンク現象についての記載は全くなく、中綿の密度に関しては、「0.02~0.05が良く、0.02以下では底づき感、へたりが多くなるうえ、洗濯により形態変化が起こる。一方、0.05以上ではかたくなりすぎて板状となり好ましくない。」(10頁10行ないし13行)と記載されているだけである。このような課題に基づく中綿の好適密度の設定は、引用例3記載の発明での密度の設定と実質的に同一の事項であり、このような技術的課題について意識的に無視し、本件出願公開後の昭和60年12月13日付けの手続補正により初めて加筆されたパンク現象を殊更に取り上げて従来技術と比較する原告の主張は恣意的であるといわざるを得ない。
次に、原告は、当業者は、吹込み方式で、本件考案の中綿のポリエステル短繊維がほぼ吹込み方向に直交する垂直断面内に圧縮配列し、その中綿を見掛け密度を0.02~0.05g/cm3にすることは、パンク現象の発生をおそれてこれを避けるはずであるから、この方法を採用することは、当業者にとってきわめて容易とはいえないと主張する。
しかしながら、前述したように、中綿を吹込み方向に垂直断面内に圧縮配列させ、見掛け密度を0.02~0.05g/cm3にすることは、当業者が容易に試みることができるのであり、その際にパンク現象などの不都合が生じれば、その対策を施すことは当業者にとって常識である。そして、パンク現象や断層崩れなどの中綿の移動の結果として生ずる不都合な現象を刺し綴じによって解決することは、座ぶとん、敷ふとん、掛けふとんなど古くから行われており、また、吹込み方式による詰物に厚さ方向固定部(キルティング)を設けることも知られているから、本件考案の場合にも、パンク現象や断層崩れを防止するため刺し綴じを試みることは、当業者であれば、きわめて容易に想到するというべきであるから原告の主張は誤りである。
以上のとおり、原告主張の取消事由1は理由がない。
(2) 取消事由2(相違点(c)に対する判断の誤り)について
原告のいう「断層崩れ」とか「パンク現象」とかがどのような現象を指しているのか、必ずしも明らかではないが、要するに、中綿の移動の結果生ずる不都合な現象をいうものと解される。このような中綿の移動を防止するため、座ぶとん、敷ふとん、掛けふとんなどに刺し綴じが用いられ、吹込み方式による詰物に厚さ方向固定部(キルティング)を設けることは、本件出願前周知であった。したがって、断層崩れやパンク現象を防止するために、これらの手段を採用することは、当業者が容易に思いつくことである。
なお、原告は、パンク現象があたかも特殊な現象であり、断層崩れ、中寄れなどの一般の中綿の移動による不都合な現象と異なるかのごとく述べている。しかし、パンク現象については、当初明細書には全く記載されておらず、見掛け密度とパンク現象との関係も、後の手続補正により新たに加筆されたものであり、本件出願時には、原告において全く認識されていなかった事項である。原告は、出願時には何ら関連づけられていなかった中綿の見掛け密度、パンク現象、厚さ方向固定部との技術的関係を、本件考案の出願公開後の手続補正により関連づけて、あたかも本件考案が高度な技術であることを印象づけようとしているのである。
原告は、引用例4記載の考案の内容は、本件考案のパンク現象の防止手段である厚さ方向固定部と異なると縷々主張する。しかしながら、本件考案のいうパンク現象を一般の中綿の移動による不都合な現象と異なるものとすること自体が誤りである。そればかりか、引用例4記載の考案は、刺し綴じをすることが従来から周知であったとの事実の一例として挙げられているにすぎず、これを挙げるまでもなく、刺し綴じは周知であったのである。
また、原告は、シートクッションの平面を構成する部分において、面積100~400cm2当り少なくとも1個の中綿と側地とを一体に固定する厚さ方向固定部を設けることに特に意味があるかのごとく主張する。
しかし、刺し綴じをすることは古くから行われていることであり、その刺し綴じの数として、好適な数値範囲を決定することも古くから経験上明らかなことであり、当業者が格別の工夫を要するものと考えられない。
そして、その上限につき「100~400cm2当り少なくとも1個」というのであるから、これは数値限定としてはさしたる意味があるとは理解することはできない。
以上のとおり、原告主張の取消事由2も理由がない。
(3) 取消事由3(相違点(a)、(b)、(c)に対する判断の誤り)について
開繊されたポリエステル短繊維を側地内に吹き込んで厚さ3~7cmのクッションを製造することは、引用例1に記載されているように、本件出願日前において公知であるから、当業者は、その製造にあたり、シートクッションに共通して要求される良好なクッション性及び形態安定性を達成するため適宜その条件を設定することは当然である。
たしかに、引用例1には、本件考案における、短繊維がほぼ吹込み方向に直交する断面内に圧縮配列されている点、見掛け密度が0.02~0.05g/cm3である点、面積100~400cm2当り少なくとも1個の中綿と側地とを一体に固定する厚さ方向固定部を有する点についての具体的な記載はない。しかし、空気流で短繊維を閉塞空間内に吹き込んで詰物用の中綿を形成した場合に、該短繊維の配列が本件考案のようになることは引用例2によって公知であり、また、人体用の敷物に良好なクッション性を達成するために中綿の見掛け密度を0.02~0.05g/cm3程度とすることは、たとえば引用例3に記載されているように吹込み技術に限らぬ一般的な事項であり、さらに、シートクッションに特定数の厚さ方向固定部を設けることも、古来から敷き用の詰物体に当然のこととして行われてきており、本件考案のように吹込み方式で得られる詰物体に厚さ方向固定部を設けることも、たとえば、引用例4などに見られるように周知である。
このように、審決は、相違点(a)、(b)、(c)について、従来技術を的確に引用して判断をしたものであり、本件考案は、引用例1ないし4記載の内容に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものである。
以上のとおり、原告主張の取消事由3も理由がない。
第4 証拠関係
証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
第1 請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、同2(本件考案の実用新案登録請求の範囲)、同3(審決の理由の要点)は、当事者間に争いがない。
第2 原告主張の審決の取消事由について判断する。
1 成立に争いのない甲第2号証(平成1年実用新案出願公告第27727号公報)によれば、本件考案の明細書には、本件考案の技術的課題(目的)、構成及び作用効果について、次のとおり記載されていることが認められる。
(1) 本件考案は、椅子クッション、藤イスクッション、座ぶとんなどのシートクッションに関する。(2欄7、8行)
(2) 従来のクッションは、表面が汚れた場合、側地をはいで洗濯するとか、あるいはカバーをかけて洗濯ができるようにするわずらわしさがあり、また、中綿が汚れてしまった場合中綿まで洗濯することができず、たとえ丸洗いしたとしても形が崩れるとか、クッションとしての弾発性がなくなってしまうという欠点を有していた。
一方、繊維シートを所要の厚さに折り畳み、該折り畳まれて積層された隣接する積層シートを熱融着やニードリングによって厚さ方向、平面方向を連続一体に固定する詰綿を形成する方法が、昭和52年特許出願公告第27726号公報や昭和48年特許出願公告第5691号公報によって知られているが、これらはいずれも生産効率がきわめて悪く、しかも、前者は融着繊維を使用しているため、互いが接着した後は粗硬感が強く、後者においてもニードリングによって隣接する積層シートを連続一体に固定するため、粗硬感が大きくなり、また、全体が一体として圧縮を受けるため板状となり、シートクッションとしては不適当であった。
さらにまた、開繊された短繊維を加圧気体とともに、側地内に吹き込む製綿方法が昭和50年特許出願公開第112150号公報によって知られている。この方法は、カード機により形成した繊維シート(ウェブ)を袋状側地内に平面上に積層していく従来の方法に比べ多くの手作業が省略できるため、きわめて合理的で高生産性である。カード方式によった場合、各短繊維が平面状に連続して結合し平行に積層された状態になるのに対し、圧空吹込み方式によった場合、各短繊維はランダムな方向をもち、かつ、塊状となって互いに独立分離した状態で側地内に詰め込まれるため、これが詰綿体としての圧縮特性に高効果をもたらす。これら圧空吹込み方式によって座り心地のよい適度の硬さを有しかつ弾発性に富むシートクッションを製造するに際しては、側地内に充填する中綿の充填密度を一定以上高くする必要があるが、圧空吹込み方式によって充填密度を高くすると、綿詰め後そのままの状態では、僅かな外力によっても、繊維同志の反撥力によって、第4図に示すように短繊維充填体3が側地10と分離して山形に持ち上がり、いわゆるパンクと称される現象が起きて、詰綿体の表面に盛り上がりが発生するという欠点を有していた。(2欄9行ないし3欄31行)
(3) 本件考案は、クッションの汚れが発生したときに丸洗いしても中綿の片寄りがなく、かつ弾発性が損なわれることがなく、短繊維を用いたクッションでありながら発泡ウレタンのような弾発特性と繊維の風合いを有するクッションを実現することを目的とし、要旨記載の構成(1欄2行ないし12行)を採用した。(3欄37行ないし42行)
(4) 本件考案において第1の要件は、開繊されたポリエステル短繊維が中綿として塊状で袋状側地内に加圧気体とともに圧入するように吹き込まれ、該短繊維がほぼ吹込み方向に直交する垂直断面内に圧縮配列された、厚さが約3~7cmのシートクッションとすることである。ポリエステルは、丸洗いしても弾発特性が変わらず、物理特性が優れ、耐久性がよいという特徴を有する。また、この方式により、きわめて効率的に側地の隅々まで側地の形状に沿って均一に短繊維を充填することができ、しかも、嵩高性、弾発特性に優れ、かつ、耐久性に優れたものができる。厚さについては、3cmより薄いと、底つき感が生じ、パンク現象も発生し、実用に耐えられないのであるが、7cmより厚くても、沈み量が多く、圧迫感が生じてしまう。
本件考案の第2の要件は、中綿の見掛け密度が0.02~0.05g/cm3であることである。見掛け密度が0.02g/cm3より小さいと、沈み量が大となり、底つき感が生じ、へたりが多くなるうえ、洗濯により形態変化が起こり、また、見掛け密度が0.05g/cm3を超えると粗硬感を生じ、板状のごとき座り心地となる。
本件考案の第3の要件は、面積100~400cm2当り少なくとも1個の中綿と側地とを一体に固定する厚さ方向固定部を形成することである。中綿は、その短繊維の大部分が加圧気体の吹込み方向に直交する垂直断面内に圧縮配列されているため、弾発特性が向上するが、その反面、少しの外力によって繊維層が山状に持ち上がり、層が崩れるパンク現象が発生したり、さらに、平面方向の絡合いが少ないので、使用時における中綿の断層崩れが発生するが、本件考案では、上記の厚さ方向固定部を形成することにより、このようなパンク現象や使用時における中綿の断層崩れが防止でき、形態安定性、弾発特性、耐久性が極度に向上し、加えて丸洗いしても中綿が移動しないという作用効果も発揮される。(4欄9行ないし5欄38行)
原告は、本件考案の実用新案登録請求の範囲中の厚さ方向固定部に関する「面積100~400cm2当り少なくとも1個」の記載は、その記載自体矛盾した表現で意味をなさず、「面積100~400cm2当り1個」の誤記である旨主張する。しかしながら、前掲甲第2号証によれば、本件明細書の実用新案登録請求の範囲の記載自体からは、これを誤記と認むべき技術的理由は見出せないのみならず、考案の詳細な説明にも、「本考案の第3の要件は、該クッションの平面を構成する部分において、面積100~400cm2当り少なくとも1個の中綿と側地とを一体に固定する厚さ方向固定部を形成せしめるものである。」(5欄16行ないし19行)、「本考案では従来の中綿をクッションの水平方向に配列させたふとんにおける固定部数よりも多い面積100~400cm2当り少なくとも1個の厚さ方向固定部を形成することによって」(5欄31行ないし34行)、「上記固定部はクッションの平面の面積100~400cm2当り少なくとも1個とする必要がある。」(5欄39行ないし41行)といずれも「少なくとも」との文言が使用されていることが認められる。たしかに、考案の詳細な説明の「固定部数が前記下限未満では使用時の断層崩れ、パンク現象、および丸洗い時の中綿の移動が発生して本考案の目的が達成できず、前記上限を越えると、クッション性は板上となり、また、嵩高性が低下し本考案の目的が達成できない。」(5欄40行ないし6欄1行)の記載部分からすると、上限について矛盾した内容となるとはいえるものの、その余の上記考案の詳細な説明からして、一見して上記実用新案登録請求の範囲の記載が誤記であると認めるに至らないというべきである。
したがって、本件考案の要旨は、実用新案登録請求の範囲記載のとおりとした審決の認定は正当である。
2 取消事由1(相違点(a)及び(b)に対する判断の誤り)について
(1) まず、審決の相違点(a)に対する判断の当否を検討する。
引用例1には、「ポリエステル系合成繊維であり開繊された短繊維を、高圧空気流発生装置によって側地内に吹き込んで製造されるシートクッション」が示されていること、引用例2には、「ほぐされた繊維を、空気ノズルから空気とともに凝縮溝中に吹き込み、該凝縮溝はそれ自体の振動運動と、繊維に作用する空気圧とによって振動し、後者が空気流に対して直角状態に作用することにより、繊維が繊維層の表面に対しほとんど垂直方向に配列され、接着剤によって固定することにより、主に詰物材料として用いられる。三次元方向に繊維が配列して原料使用量が減り、状態維持力のあるウェブが製造される」こと、及び「その繊維の凝縮度が、使用空気圧に関係する」ことが示されていることは、当事者間に争いがない。
そして、引用例2記載の技術をより詳細にみると、成立に争いのない甲第4号証(RADKO KRCMA著、「クラッチマの不織布」、株式会社日本繊維新聞社昭和49年1月20日発行)によれば、「フランス特許にあるウェブの製法は、…三次元空間に繊維を配列したものである。…この製法…と使用機械は、主に詰め物用材料の製造に用いられる。この材料は繊維が繊維層の表面に対しほとんど垂直方向に配列され、接着剤によって固定されている。」(77頁図-25下1行ないし3行)、「繊維は1個あるいはそれ以上のノズルで、凝縮溝中へ吹きこまれる。凝縮溝はそれ自体の振動運動と、繊維に作用する空気圧によって振動する。後者は空気流に対して、直角状態に作用する。繊維の凝縮度は、使用空気圧に関係する。」(同頁図-25下6行ないし9行)、「本機には繊維塊が供給されるサクションダクトをもつファンが付いている。もう一つのファンが繊維をほぐし、ダクトを通じて1個あるいはそれ以上のノズルによって凝縮溝につながる。溝の高さと幅は、形成されるべき繊維層の必要な厚さと幅に一致している。」(同頁図-25下10行ないし12行)と記載されていることが認められる。
上記争いない事実とこの記載によれば、引用例2には、詰物の材料を製造するため、開繊された繊維をノズルで溝内に吹き込み、これにより、繊維が繊維層の表面に対してほとんど垂直になるように凝縮して配列されること、すなわち、移送される繊維が三次元方向に配列されること、及び、繊維の凝縮度は使用する空気圧に関係することが示されているということができる。
そして、引用例1記載の発明も引用例2記載の技術も、いずれも開繊された短繊維を閉塞空間内に空気圧で吹き込むことによって詰物を製造するという点で共通しているのであるから、引用例1記載の発明における繊維を空気流により側地内に送り込む構成に、引用例2記載の構成、すなわち、繊維が繊維層の表面に対してほとんど垂直になるように凝縮して配列する構成を適用することは、当業者にとって格別困難なこととは認められないというべきである。
したがって、相違点(a)に対する審決の判断に誤りはない。
(2) 次に、審決の相違点(b)に対する判断の当否について検討する。
成立に争いのない甲第5号証(昭和55年特許出願公開第76152号公報)によれば、引用例3は、名称を「繊維製マットレス状物およびその製造法」(1頁左下欄3行)とする発明に関するものであり、その特許請求の範囲には、「(1) 約40~95重量%の詰物用繊維と約5~60重量%の繊維状接着剤とからなり、該繊維状接着剤がその繊維状形態を実質的に保持して該詰物用繊維を接合しており、かつ0.010g/cm3以上で0.050g/cm3を越えない範囲の見掛密度並びに少なくとも一表面に巾方向に沿った切れ目および/または凹凸状成形部からなる折りたたみ部を有する繊維製マットレス状物。…」(1頁左下欄5行ないし12行)と記載され、発明の詳細な説明には、「かくして繊維状接着剤で接合された詰物用繊維は、繊維状接着剤と接触する部分で接合されるので実質的に該詰物用繊維が相互に移動することがなく、優れた形態安定性を示すが、繊維密度が0.010g/cm3以上であって、0.050g/cm3を越えない範囲内、好ましくは0.020g/cm3~0.046g/cm3の範囲内であることが必要である。すなわち、0.010g/cm3より密度が低くなると弾力性や圧縮抵抗力が小さくなり、本発明の目的とするマットレスライクな性能を保有しなくなるので好ましくないし、一方0.050g/cm3を越えると弾力性が強くなりすぎて、たとえば、敷ふとんやマットレスとして使用した場合に身体に対する圧迫感が強くなったり、適合性が悪化して保温性が失われることが多く好ましくない。」(3頁左上欄2行ないし16行)と記載されていることが認められる。
他方、前掲甲第2号証によれば、本件明細書には、「中綿の見掛け密度が0.02g/cm3より小さいと、…全体として柔らかで座ったときの沈み量が大となり底つき感を生じ、へたりが多くなる上、洗濯により形態変化が起こる。また、中綿の見掛け密度が0.05g/cm3を越えると粗硬感を生じ、圧縮率も小さくなり、板状の如き座り心地となり、シートクッションとしては不適となる。」(5欄7行ないし15行)と記載されていることが認められる。
これらの記載によれば、中綿の見掛け密度について、本件考案では0.02g/cm3よりも、引用例3記載の発明では0.010g/cm3よりも低い場合は、弾力性や圧縮力が小さくなって詰物としての性能が維持できないことが、また、双方とも0.05g/cm3を越える場合は、弾力性が強くなりすぎ圧縮率が小さくなり、詰物として不適となることが共通して指摘されているということができる。そうすると、表現は異なるものの、その意味するところに格別に差異はないものと認められる。他に、本件明細書をみても、その数値限定に特別の意味があることを示しているとは認められない。
なお、上記適値として示されている中綿の見掛け密度の最低値について、本件考案では0.02g/cm3であるのに対し、引用例3記載の発明では0.010g/cm3とされていて、その数値には差異がある。しかしながら、引用例3記載の発明では、上記認定のとおり、「好ましくは0.020g/cm3~」とされているのであるから、その差異に格別の意味があるとは認められないというべきである。
そうすると、使用空気圧により堆積繊維の凝縮度が左右されることは、前記2<1>記載のとおり、既に知られていたものであるところ、本件考案のシートクッションと引用例3記載の発明のマットレス状物とは、ともに人体用敷物である点で共通し、引用例3記載の発明においてその詰物の見掛け密度は0.02~0.046g/cm3が好ましく、同時に0.05g/cm3を越えると不適になることが示されているのであるから、引用例1記載の発明において、中綿の見掛け密度を0.02~0.05g/cm3とし、本件考案と同一の範囲の数値に限定することについて、それが格別困難であるとすることはできない。
したがって、相違点(b)に対する審決の判断に誤りはない。
(3) 原告は、引用例2記載の技術、引用例3記載の発明とも、短繊維を側地内に直接吹き込む方式ではなく、しかも、いずれも接着剤を使用するものであって、いわゆるパンク現象の防止を施す必要がないものであるから、パンク現象の発生の防止を教示していることにならない、このパンク現象を防止する手段が明らかにされていない以上、当業者は、引用例1記載の発明のいわゆる吹込み方式に引用例2記載の技術、引用例3記載の発明を採用し、本件考案のように短繊維を高密度に圧縮配列させる詰込み手段は避けるはずであり、短繊維を吹込み方向に直交する垂直断面内に見掛け密度0.02~0.05g/cm3という高密度で圧縮配列させるということを想到することが、当業者にとってきわめて容易であるとはいえない旨主張する。
そこで検討するに、引用例2記載の技術は、前記2<1>認定のとおり、短繊維を凝縮溝中へ吹き込んで詰物用材料を製造するものであり、直接側地内へ吹き込むものではなく、また、繊維が繊維層の表面に対してほとんど垂直方向に配列されたものを接着剤によって固定するものであり、引用例3記載の発明も、前記2<2>認定の事実、及び前記甲第5号証により、「本発明の繊維状マットレス状物はそのまま各種の側地で被覆して製品化することもできるが、該繊維状マットレスの少なくとも一表面もしくは全体を通常の各種ウェブで積層もしくは被包し、用途目的に応じた性能を向上させることができる。」(3頁左下欄11行ないし15行)と記載されていることが認められることから、直接側地内に吹込む方式ではなく、また、繊維状接着剤を用いるものであることが認められ、したがって、引用例2記載の技術、引用例3記載の発明とも側地内に直接吹込む方式をとっていないこと、接着剤を使用しているので、原告のいうパンク現象(繊維層が山状に持ち上がり、形が崩れる現象)の発生防止手段をとる必要がないことについては、原告主張のとおりであることになる。
しかしながら、審決は、引用例2記載の技術、引用例3記載の発明について、原告のいう吹込み方式やパンク現象の発生防止が記載されているとしているのではない。すなわち、審決が、相違点(a)に関し、引用例2について認定しているのは、「ほぐされた繊維を空気とともに溝などの閉塞空間内に吹き込むと、空気の流れによって、移送される繊維の配列状態が影響を受けて三次元方向に配列される」とする点であり、また、相違点(b)に関し、引用例3について認定しているのは、「敷ふとん等の詰物の見掛け密度は、0.02~0.046g/cm3が好ましい」とする点である。
してみれば、原告の主張は、審決で認定判断していない事項について不当を主張するものであって、採用することができない。
(4) さらに、原告は、相違点(a)(中綿の短繊維がほぼ吹込み方向に直交する垂直断面内に圧縮配列されている)、相違点(b)(中綿の見掛け密度が0.02~0.05g/cm3である)は、一体の要件であり、従来これを一体としたものは、いわゆるパンク現象を生ずるので実用にならなかったのであるが、本件考案は、これを可能にしたもので、2つの相違点を一体のものとして検討しなければ意味をなさない旨主張する。
しかしながら、クッションにおいてある素材を選択した場合、その弾力性及び圧縮性について、人体に用いる場合の適正な範囲はどの程度であるかは、幅はあるものの自ずから限定されるものと判断されるうえ、その際、原告のいうパンク現象などの不都合が生ずるのであれば、その対策を施すことは、当業者にとって常識であると考えられる。そして、このパンク現象を防止するために、厚さ方向固定部を採用することは、後記相違点(c)に対する判断で示すように、従来から周知である刺し綴じの手段を用いることにより容易になし得たものと認められる。
そうすると、相違点(a)及び相違点(b)を一体として判断していないからといって、その判断が誤りであるということはできず、この点についての原告の主張も採用することができない。
3 取消事由2(相違点(c)に対する判断の誤り)について
(1) 成立に争いのない甲第6号証(昭和48年第99436号実用新案登録願書及び同添付の明細書、図面のマイクロフィルムの写し)によれば、引用例4は、名称を「合成繊維綿入りふとん」(明細書1頁3行)とする考案に関するものであり、その実用新案登録請求の範囲には、「繊維間静摩擦係数および動摩擦係数が共に0.27以下である合成繊維ステープルを、詰綿室の全体的膨張を押さえる如く中間部で刺し綴じられたふとん側袋に、ランダムな開繊、堆積状態で詰め込んでなる合成繊維綿入りふとん」(1頁5行ないし9行)と記載され、発明の詳細な説明には、「繊維長は20~100mmが好ましい範囲とされ、短かくなり過ぎるとオープナーでの開繊性が悪くなり、長くなり過ぎると気流に乗せて詰め込む場合に引掛り易くなり共に均一の詰め込みに対する支障を来たす。」(4頁7行ないし12行)、「本考案のふとんは…合成繊維ステープルを…開繊し、次いで開繊綿を気流に乗せて詰綿室が部分的に綴じられているふとん袋中に吹き込んで作られる。」(5頁1行ないし6行)、「ふとん側袋1は詰綿室の全体的な膨張を押さえるよう中間部で刺し綴じ2がなされており、この刺し綴じ2は詰綿室を区切っており、ランダムな開繊、堆積状態に詰め込まれた詰綿3の中寄れを防止している。」(同頁10行ないし14行)と記載されており、これによれば、引用例4には、審決の認定するように、「繊維長20~100mmの短繊維を開繊堆積したものを詰綿とするふとんにおいて、詰綿の中寄れを防止する刺し綴じをなす」ことが記載されていると認められる。
(2) 原告は、引用例4記載の考案では、本件考案のようにいわゆるパンク現象を起こすことはないから、引用例4記載の考案に、刺し綴じが中寄れを防止する作用を持つことが記載されていても、この記載が刺し綴じによっていわゆるパンク現象の防止ができることを示唆しているとはいえず、また、引用例4記載の考案における刺し綴じは、本件考案のごとく詰綿(中綿)を詰め込んだ後に施して、側地の表地と中綿と側地の裏地の3者を一体にするものではないから、本件考案における固定部の設定(刺し綴じ等)とは、その目的、作用効果が全く相違し、本件考案の固定部を示唆していることにはならない旨主張する。
そこで、いわゆるパンク現象について検討するに、前掲甲第2号証によれば、本件明細書には、パンク現象について、「圧空吹込み方式によって充填密度を高くすると、綿詰め後そのままの状態では、僅かな外力によっても、繊維同志の反撥力によって、第4図に示すように短繊維充填体3が側地10と分離して山形に持ち上り、いわゆるパンクと称される現象が起きて、詰綿体の表面に盛り上りが発生する」(3欄25行ないし31行)、及び「綿詰め後少しの外力によって繊維層が山状に持ち上がり、層が崩れるパンク現象が発生し」(5欄26行ないし28行)と説明されていることが認められる。
これを従来から周知の座ぶとんなどにおける中綿の移動や片寄りと対比すると、原告のいうパンク現象では、垂直断面内に配列された短繊維が山状に持ち上がり崩れるのであるから、中綿がクッション綿に対し厚さ方向に移動するのに対し、従来の座ぶとんなどにおける中綿の移動や片寄りでは、繊維層が側地と平行に配列されているため、中綿は側地内において繊維層に平行な方向(水平方向)に移動する、つまり、両者は、中綿の移動の方向が異なる点で相違していると判断される。
しかしながら、その相違は、側地内での中綿の繊維の配列方向の差異に起因することは明らかであり、しかも、中綿の短繊維を垂直断面内に配列することは、既に引用例2記載の技術により知られていたのであるから、その点を別にすれば、いずれも繊維が側地内で移動することによって、中綿の形態が崩れる現象の一形態であることに変わりないということができる。
この点について、原告は、「従来の座ぶとんの中綿の移動や片寄りと、本件考案におけるパンク現象とは、同様に側地と短繊維が移動する現象であっても、前者は中綿の水平方向の移動であるのに対し、後者は厚さ方向の移動であって、その発生原因も発生態様も全く相違し、同じ現象でも、同質の現象ではない。」と主張する。
しかしながら、本件考案のように垂直断面内に圧縮配列された短繊維は山状に持ち上がり崩れる傾向を有し、そのままでは形態維持が難しいこと、すなわち、原告のいうパンク現象の発生及びその防止自体は、既に、引用例2記載の技術において示唆されており(同引用例には、繊維層の表面に対してほとんど垂直に圧縮配列された繊維が接着剤によって固定されることが記載されており、この接着剤の使用は、原告のいうパンク現象の発生を予測し、その防止を示唆するものであるといえる。)、原告のいうパンク現象は、垂直断面内に圧縮配列された詰物に発生する一般的な現象にすぎないものといえる。そして、上記判断のとおり、原告のいうパンク現象も、たとえば従来の座ぶとんなどにおける中綿の移動や片寄りも、詰物において、側地内で中綿が移動することによって中綿の形態が崩れる一般的な現象にすぎないといえるから、垂直断面内に圧縮配列された短繊維の崩れによる現象を、原告のいうように従来の座ぶとんなどにおける中綿の移動に比して特別のものであるとすることはできない。
ところで、本件考案において、原告のいうパンク現象を防止するための厚さ方向固定部は、前掲甲第2号証によれば、本件明細書には、「かかる固定部とは、中綿と側地を一体に固定するもので、糸により縫製すること、ホック、クリップ、ボタン等のひっかける手段等により固定する方法も含むものである。」(5欄19行ないし23行)と記載されており、従来の刺し綴じを含むのはもちろんのこと、その他従来から側地内での中綿の移動を防止するために周知である手段を広く含むものということができる。
そして、従来の刺し綴じの目的は、側地と中綿とを一体に固定して両者のずれを生じないようにすること、つまり、側地内で中綿が移動して繊維層が崩れるのを防止することであり、また、刺し綴じを施せば、側地と中綿は一体に固定され、その際、中綿の移動は水平方向のみでなく、厚さ方向においても防止されることも明らかであるから、従来の刺し綴じの目的と本件考案における厚さ方向固定部のそれとを、区別して論ずる理由はないというべきである。
してみると、原告の主張するように、パンク現象が従来の座ぶとんなどの中綿の移動や片寄りとその発生原因や発生態様において相違している点があるとしても、現象そのものは、上記認定のとおり、繊維が側地内で移動することによって中綿の形態が崩れることの一形態とみることができ、また、従来の刺し綴じの目的と本件考案における厚さ方向固定部のそれとは格別相違するものではなく、本件考案において、従来の刺し綴じを採用することにつき、何ら困難な点は認められないと判断される。
(3) 次に、原告は、本件考案は、シートクッションの平面を構成する部分において、面積100~400cm2当り少なくとも1個の厚さ方向固定部を設けることによりいわゆるパンク現象の発生を解決し、シートクッションの形態安定性、弾発特性、耐久性を極度に向上させ、また、丸洗いができるようにしたものであって、これを何ら困難性がないとした審決の認定判断は誤りである旨主張する。
前掲甲第2号証によれば、厚さ方向固定部の個数に関し、本件明細書には、その考案の詳細な説明に、「上記固定部はクッションの平面の面積100~400m2当り少なくとも1個とする必要がある。固定部数が前記下限未満では使用時の断層崩れる、パンク現象、および丸洗い時の中綿の移動が発生して本考案の目的が達成できず、前記上限を越えると、クッション性は板上となり、また、嵩高性が低下し本考案の目的が達成できない。」(5欄39行ないし6欄1行)との記載が認められる。
しかしながら、刺し綴じの目的とその作用効果は、前記3<2>のとおりであるから、その数が少なすぎて中綿の移動を阻止できなければ、刺し綴じの数を増やせばよいが、ただし、刺し綴じの数を多くすれば、それだけクッション性が悪くなり板状に近づき、また、それだけ加工に手数がかかるなどの欠点が生ずること、したがって、刺し綴じの数を選定するに当たっては、これらの事情を考慮すべきことは、いわば技術常識ともいえるものである。
してみれば、原告のいうパンク現象を防止するため、厚さ方向固定部の数を一定の範囲内にすることは当然であり、その数については適宜選択することが可能であると認められるから、本件考案の数値限定が格別困難であるとすることはできない。
なお、原告は、「面積100~400m2当り少なくとも1個」の記載は、「面積100~400m2当り1個」の誤記である旨主張するが、これが認められないことは、前記1認定のとおりであり、厚さ方向固定部の個数の上限についての数値限定は、さらにその意味がないというべきである。
以上により、相違点(c)に対する審決の判断が誤りであるとする原告の主張も採用することができない。
4 取消事由3(相違点(a)、(b)、(c)に対する判断の誤り)について
原告は、「本件考案は、各構成要件が一体となり有機的に結びついて高品位のシートクッションを構成するものであるのに、審決は、これを無視して、本件考案の構成を、繊維吹込み方式、繊維配列、見掛け密度、厚さ方向固定部とばらばらに分解し、そして、本件考案と引用例1記載の発明とを対比し、その相違点について、本件考案の構成要件の一つが断片的に記載され、かつ、詰物に関するというだけで、本件考案とも相互間にも技術的に関係のない引用例2ないし4を引用し、これら引用例2ないし4記載の発明、考案、技術の目的及び全体的構成を全く無視して、これらの引用例の構成要件中から機械的に本件構成要件のみをつまみ出し、それぞれの相違点の進歩性を否定したものであって、不当な判断である。」と主張する。
しかしながら、審決で各相違点について示された引用例は、いずれも本件考案のクッションと同じ人体用の敷物に用いる詰物に関するものであり、しかも、原告は、審決が示した相違点に対応する構成要件は、パンク現象の発生とその防止という点で有機的に結合している旨主張するが、そのパンク現象とは、既に認定したように、繊維が側地内で移動することによって中綿の形態が崩れる現象の一態様にすぎず、かつ、その防止手段も単に従来周知のものを採用したにすぎず、その他、本件考案の構成要件は、詰物として既に知られ、または、格別意味を有しないといえる数値限定にすぎないのであるから、原告の上記主張は理由がない。
5 以上のとおり、原告の審決の取消事由の主張は、いずれも理由がなく、審決に原告主張の違法はない。
第3 よって、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用(補助参加によって生じた費用を含む。)の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条、94条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 関野杜滋子 裁判官 持本健司)
別紙図面1
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別紙図面2
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別紙図面3
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別紙図面4
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別紙図面5
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